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神戸地方裁判所 昭和26年(行)4号 判決

原告 山下直次

被告 神戸税務署長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、

「被告が昭和二五年二月二六日にした原告の昭和二四年度の所得税額の更正(ただしその額は更に同二六年一月二四日所得金額を二八〇、〇〇〇円としこれを基準として計算することに更正された)を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求め、

その請求の原因として、

「原告は昭和二一年九月以来神戸弁護士会に所属する弁護士であるが、被告は原告の昭和二四年度の所得の確定申告に対し、昭和二五年二月二六日その所得金額を四六〇、〇〇〇円と更正して通知した。原告はこれに対し異議があるので、同年三月二〇日審査の請求をしたところ、被告はその後昭和二六年一月二四日附で、右更正に誤謬ありとし右更正所得金額を更に二八〇、〇〇〇円と更正して通知したが、原告の審査請求に対しては請求後三ケ月を経過するも、これに対する決定をしないので、行政事件訴訟特例法第二条但書の規定により審査の決定を経ず本訴を提起するものであるが、被告は原告の昭和二四年度の総収入金額を四〇〇、〇〇〇円とし、弁護士所得についての必要経費をその三〇%として前記四〇〇、〇〇〇円に三〇%を乗じてえた一二〇、〇〇〇円を控除した二八〇、〇〇〇円を所得金額と決定したのである。

元来事業所得における必要経費は各納税者毎に異るのであるから、各納税者別に決定すべきであるのに、弁護士所得についての必要経費を一律に三〇%として、決定した点が違法である。昭和二四年度の所得税更正決定は国税庁より各税務署長に所得税をいくら取れという命令があり、税務署長は右割当てられた金額に達する様に実体的調査もなさずに更正決定をしたのが実状であつたため、神戸税務署においても納税者一〇、〇〇〇人の内七、〇〇〇人まで更正決定をなし内五、〇〇〇人位の誤謬訂正をなしており、同年度の全国では所得税の更正決定を受けた人は四、四二七、〇〇〇人であつたが、昭和二六年度は昭和二七年五月末現在で一五二、五三二人で(甲第二七号証参照)僅か二年の間にこの様に驚くべき減少を来している。この事はとりもなおさず、神戸税務署を含めた全国の税務署の昭和二四年度の所得税の更正決定は勿論誤謬訂正も合理的基礎を欠く、当寸法によるものであることの明白な証拠である。

原告の昭和二四年度の収入は、

(一)弁護士収入 三七六、五〇〇円

(二)恩給     一七、四七二円

(三)預金利子    六、〇二八円

以上合計     四〇〇、〇〇〇円

であるところ、原告の場合における弁護士所得についての必要経費は次の通りである。即ち、

(a)  事務補助者としての妻と長男に対する給料四八、〇〇〇円。

弁護士は一人でその事務をやつて行けるものではなく、補助者を要するのであるが、原告の弁護士としての収入は、他人の補助者を雇入れるには不足しているので、妻千代子と長男繁に手伝つて貰つており、妻は訴状その他裁判所に提出する書類の浄書をなし、原告の口述するところを筆記し、所得額の調査をなし、その他時々事務所に弁当を持参する等雑用をなし、長男は法規、学説、判例の集収、整備、金銭出納をなし、時に外部への使に行つている。この二人に対し、一人一ケ月二、〇〇〇円宛、一年の合計四八、〇〇〇円を支払つている。

(b)  交通費二一、六八〇円

内訳

原告の定期代一ケ年四、三〇〇円。市内電車賃一ケ月五〇〇円一ケ年六、〇〇〇円。市内タクシー代一ケ月二五〇円一ケ年三、〇〇〇円。阪急、阪神、山陽等郊外電車賃一ケ年七〇〇円。

原告の妻及び長男が垂水の自宅から原告の法律事務所に通勤の費用として昭和二四年一月から四月までは一往復二〇円一ケ月二〇往復で四〇〇円、四ケ月で一、六〇〇円、同年五月から一二月までは一往復四〇円一ケ月一八往復又は二〇往復にて八ケ月間で六、〇八〇円。

(c)  書籍代一八、〇〇〇円

内訳

最高裁判所判例集七〇〇円。有斐閣六法全書八七〇円。小六法三三〇円。松本蒸治著、註釈株式会社法二〇〇円。団藤重光著、新刑事訴訟法綱要三三〇円。末川博著、所有権契約その他の研究二五〇円。滝川幸辰著、刑法学周辺一六〇円。杉村章三郎著、改訂行政法要義上巻二八〇円、下巻二一〇円。我妻・加藤共著、農地法の解説二五〇円。奥野著、改正民事訴訟法解説一六〇円。田中和夫著、英米法の基礎一五〇円。田中耕太郎著、世界法の基礎一、五〇〇円。美濃部達吉著、日本国憲法原論二七〇円。伊沢孝平著、手形法小切手法七六〇円。於保不二雄著、相続法一三〇円。俵静男著、逐条憲法要義二五〇円。末川博著、債権各論二册五〇〇円。朝日、毎日、神戸、産業経済各新聞一ケ年二、一六〇円。実業の日本六〇〇円。東洋経済新報七二〇円。エコノミスト一、八五〇円。法律タイムス七八〇円。法律時報四二〇円。文芸春秋、別册共一、二五〇円。中央公論八八〇円。改造七四〇円。日本週報、官報等一、三〇〇円。

(d)  広告費三、〇〇〇円。

(e)  年賀郵便三、〇〇〇円。

(f)  訴状貼用印紙、その他訴訟用書類に対する貼用印紙、切手、葉書代合計二〇、〇〇〇円。(甲第一五号証ないし第二二号証参照)

(g)  雑費一〇、〇〇〇円。

内訳

名刺代五〇〇円、紙代三、〇〇〇円、事務所所在ビル内受附等に対する心附三、〇〇〇円、その他通信費等。

(h)  弁護士会費四、八〇〇円。

内訳

昭和二四年一月より八月まで毎月一五〇円、九月より一二月まで毎月六〇〇円。

(i)  公租公課一〇、一二〇円(甲第三号証参照)

(j)  交際費三〇、〇〇〇円。

内訳

会食費一回平均二、〇〇〇円として八回にて一六、〇〇〇円。喫茶一回平均二〇〇円にて一週一回又は二回、一ケ年七〇回にて一四、〇〇〇円。

(k)  弁護士としての品位を保つに必要なる服装費一六、二〇〇円。

弁護士であろうとなかろうと人として一応の服装がいることは言うまでもないことであるが、原告が主張するのは洋装費のことである。もし弁護士でなかつたならば和服でも済まされるが、弁護士をやる以上は和服では不便である。又下級品の使用もできぬ。又法廷でも、事務所でも相手方の所に赴く場合でもズツク靴やよれよれの垢染みた洋服では法廷の神聖を保ち、弁護士としての品位を保つことはできぬ。原告の収入の九〇%以上は事業主たる弁護士としての収入である場合に右に述べた意味における服装費は所得税の対照となる所得を生ずるための必要経費である。

内訳

レインコート四、五〇〇円。ワイシヤツ一、五〇〇円。靴下半ダース一、〇〇〇円。靴四、〇〇〇円。ネクタイ五〇〇円。夏帽子一、二〇〇円。書類入手提カバン三、五〇〇円。

(l)  出張旅費、日当八〇、〇〇〇円。

原告は事件依頼者より依頼を受け、弁護士として大阪に一五回、京都に一〇回、西宮に二〇回、西脇に五回出張したが、一回につき二、〇〇〇円にて合計八〇、〇〇〇円の旅費、日当の支払を受けたが、これは弁護士会規によれば、弁護士が依頼を受けて神戸市外に出張する場合には、一日一、〇〇〇円以上の日当を請求しうることを規定しているのによつて支払を受けたもので、右旅費日当は所得税の課税対象とならないものと考える。その理由は現に一般行政官及びサラリーマンに対する旅費日当は課税の対象となつていない。今日の如く所得税に対する課税が重くて本俸のみを以てしては到底生活を維持し難いときは、一般行政官及びサラリーマンはこの課税の対象とならない日当により生活費の不足を補つている。弁護士は一般人に比し、高い道徳を要求せられているため、その品位を保つべく努力し且その職責は重大でこれを果すには甚だしい困難を伴うものであるに拘らず、その収入は不足で、一旦病気にかかつても一般サラリーマンの如く健康保険を利用することもできず、官吏の如く恩給ないし退職金の制度もない。神戸は物価が高いので公務員は三割の地域手当を受けており、又著述家に対する印税は六割の控除を認めており、本人は勿論その相続人に対しても同様であるときく。これ等のことを考えると弁護士の市外出張に対する旅費日当は課税の対象となすべきでないことは当然である。

もし右主張が認められないとすれば内四六、五〇〇円は必要経費と認められるべきである。

その内訳は、

(1)  大阪行一五回、これに要した実費は昭和二四年四月末日までの一〇回は汽車賃一往復六〇円(三等)にて一〇往復六〇〇円、同年五月一日以降は汽車賃一往復九〇円(三等)にて五往復四五〇円、昼食費一回三〇〇円にて一五回四、五〇〇円、以上の合計五、五五〇円を実費支出したのであるが、汽車は三等の六倍の一等の旅費として六、三〇〇円、日当一日五〇〇円として一五回七、五〇〇円、この合計一三、八〇〇円。

(2)  京都行一〇回、これに要した費用は、出張はいづれも昭和二四年五月以降であつたので(甲第二号証の三参照)汽車賃一往復二二〇円(三等)にて一〇往復二、二〇〇円、昼食費一回三〇〇円にて一〇回三、〇〇〇円、以上の合計五、二〇〇円を実費支出したのであるが、汽車は一等の旅費として一三、二〇〇円、日当一日五〇〇円として一〇回五、〇〇〇円、この合計一八、二〇〇円。

(3)  西脇行五回、これに要した費用は出張はいづれも昭和二四年五月以降であつたので、(甲第二号証の一、第一七号証参照)汽車賃一往復二〇〇円にて五往復一、〇〇〇円、昼食費一回三〇〇円にて五回一、五〇〇円、以上合計二、五〇〇円を実費支出したのであるが、日当一日五〇〇円として五回二、五〇〇円と前記汽車賃との合計三、五〇〇円。

(4)  西宮行二〇回、これに要した実費は昭和二四年四月末まで一〇回は汽車賃一往復三〇円にて一〇往復三〇〇円、同年五月以降は一往復五〇円にて一〇往復五〇〇円、昼食費一回三〇〇円にて二〇回六、〇〇〇円、以上合計六、八〇〇円を実費支出したが、日当一日五〇〇円として二〇回一〇、〇〇〇円と汽車賃一、〇〇〇円との合計一一、〇〇〇円。

以上(1)(2)(3)(4)の合計四六、五〇〇円は必要経費と認められるべきである。

仮に右主張が理由ないとすれば右の内大阪、京都行の旅費を二等運賃で計算した三六、七五〇円は必要経費と認められるべきである。

(m)  原告の一ケ月の食費四、〇〇〇円一年間四八、〇〇〇円。

弁護士はその資格をうるために多額の学修費と年月を費して法律学を研究したもので、これに費した費用と年月は所得税にいわゆる事業の設備費又は固定資本に投ずる費用に匹敵するもので、他の事業では設備費又は固定資本に対する償却を認めており、又欠損の場合には次年度以降の収益中より前年度の欠損額を差引いているのに、弁護士の所得について、これらを認めぬのは甚だ不合理である。弁護士の仕事は精神並に肉体が主たるものであつて、事務所とか書籍とかいうものは従たるものである。況や広告の如きは末の末である。然るに税務署は広告費や事務所費は必要経費として認めるが、食費は認めぬと言うが、弁護士は広告は全然しなくてもやつて行けるし、事務所も二、三ケ月はなくてもやつて行けるが、精神並に肉体の活動が停止したら一日もやつて行くことはできない。これ食費を必要経費中第一位の必要経費と主張する所以である。

(n)  家賃相当額として総収入の一割一年間四〇、〇〇〇円。

家賃は戦前は収入の二割とせられたものであるが、現在は六畳一間の貸間代一ケ月二、三千円である。原告は自己所有の土地家屋に居住しているのではあるが、今居住している家は弁護士としての品位を保つ上において必要な家屋であつて、維持費、償却費等として一ケ年四〇、〇〇〇円は必要である。又この家に居住しないとすれば、他より家を借りねばならぬが、弁護士としての品位を保つ上において一年の総収入四〇〇、〇〇〇円の一割四〇、〇〇〇円相当の家を賃借しなければならない。

のみならず、昭和二四年中は原告の右自宅を事務所として使用していた。即ち神戸市生田区栄町通四丁目、同和火災海上保険株式会社の廊下の一部を使用賃借して机を置き、裁判所並に事件依頼者との連絡のための仮事務所として、午前中一、二時間垂水の自宅から出張して来ていたが、受附その他の事務員もおらず、弁護士としての主たる事務は垂水の自宅で執務していた。神戸税務署も弁護士が自宅をその事務所として執務する場合にはその使用する部分に対する家賃相当額を必要経費と認めておる。原告は前記の如く主たる事務は垂水の自宅で執務し、前記連絡場所については賃料を支払つていないのであるから、自宅の執務場所に対してはその賃料相当額を必要経費として認めるべきである。原告の自宅内における執務場所は三畳一間と八畳二間であり、神戸市内における弁護士の賃借事務室の賃料は普通一ケ月四、〇〇〇円を支払つているから、(現に原告の現在の事務所は一ケ月四、〇〇〇円の賃料を支払つている。甲第二六号証参照)原告主張の四〇、〇〇〇円は家賃金としてはむしろ小額に失する位である。

(o)  執行費用予納金等、一三、五〇〇円。

(1)  日通神戸港支店の事件の執行吏費用予納金一、五〇〇円と印紙、送達料等の三、〇〇〇円(乙第九号証の六の(2)参照)の計四、五〇〇円。

(2)  神戸地方裁判所昭和二四年(ヨ)第三一八号申立人同和火災海上保険株式会社外五社右代理人原告、相手方神戸銀行間の仮処分申請事件(甲第一八号証の六参照)の執行費用四、五〇〇円。

(3)  同庁昭和二四年(ヨ)第四三号申立人林三十一、右代理人原告相手方福田八三間の仮処分申請事件(甲第二〇号証の二参照)の執行費用四、五〇〇円。

以上三口の合計一三、五〇〇円は事件依頼者から受取つて直ちに執行吏に納入する等の費用であるので、原告の収入とは考えないのであるが、もしこれも一応は原告の収入であると認められるのであれば、これは必要経費であると主張するものである。

右(1)の事件についての執行吏費用予納金等が四、五〇〇円であることは乙第九号証の六の(2)により明らかであるので、(2)(3)の事件についても(1)と同額と認められるべきである。

(p)飜訳料並びに通訳料二〇、〇〇〇円。

山田光威から依頼を受けた事件に対する報酬としては同人から受取つた六〇、〇〇〇円中四〇、〇〇〇円で残二〇、〇〇〇円は神戸ベース政治顧問村田聖明に対し、飜訳料並に通訳料等として支払つたもので、前項(o)と同様原告の収入とは考えないのであるが、これも一応は原告の収入であると認められるのであるならば、これは必要経費であると主張するものである。

以上(a)ないし(n)の必要経費の総額は三五二、八〇〇円、((o)(p)をも必要経費に加えて計算すれば三八六、三〇〇円)であるが、(l)の旅費日当中大阪京都行の汽車賃を一等として計算すれば三一九、三〇〇円、(o)(p)を必要経費に入れて計算すれば三五二、八〇〇円(原告の昭和二七年一一月一〇日附準備書面第三項には三二七、二五〇円と記載されているが計算違いと考えられる。)右汽車賃を二等として計算すれば三〇九、五五〇円、(o)(p)をも必要経費に入れて計算すれば三四三、〇五〇円、(原告の右準備書面には三一八、五〇〇円と記載されているが、同様計算違いと考えられる。)である。

弁護士の必要経費の内交際費として弁護士収入の二割、服装費一割相当額は仮に実際にこの目的のために全部を消費していなくても、全額必要経費として控除し、所得税を課すべきでないことは、健康保険における保険医の業務上の収入に対する七割又は七割五分が必要経費として控除され、課税されない事実と対比されるべきである。

被告は原告の所得を消費的支出、負債の返済、預金の増加の面から間接に推定したと主張するが、

(1)の消費的支出については、

(イ) 通常生活費は被告の主張する様に二四〇、〇〇〇円ではなく一五六、〇〇〇円である。

その内訳は、

原告の食費一ケ月四、〇〇〇円の割にて一年間四八、〇〇〇円、家族三人の食費を含めた生活費一人一ケ月二、五〇〇円の割にて一年間九〇、〇〇〇円、女中の食費一ケ月一、五〇〇円で一年間一八、〇〇〇円妻と長男は原告より毎月二、〇〇〇円を受けているので、それも生活費に使用している。これは原告が支出する妻、長男に対する生活費二、五〇〇円中には含まれていない。

一般家庭に比し通常生活費が右の如く少額であるのは、原告はその邸内に約一段歩の菜園を有し、これより麦、野菜、果実等の収穫をえ、又鶏を飼育して鶏卵を自給していること、燃料については昭和二三年に多量に薪を買い込んでいたので、昭和二四年中は燃料は一切買入れなかつたこと、原告は酒たばこは全然のまないこと等の理由によるものである。

もし裁判所において、右の家計費では原告は生活して行けなかつた、更に多額の家計費を要したと認定せられる場合にはその不足分は前記必要経費中裁判所において必要経費と認められなかつた原告主張の金員の内から支出したものである。

これでも尚不足であると認定せられる場合には、昭和二四年一月一八日原告が神戸銀行須磨駅前支店普通預金口座に預入れた五二八、三〇〇円の内よりその不足分を支払つたものであると予備的に主張する。(甲第八号証中昭和二四年一月一八日以降の記載参照)

(ロ) 長男、次男の学資金は被告主張の金額七八、六〇〇円中授業料、研究費等並に通学費の合計三〇、六〇〇円のみは認めるが、その余は否認する。

即ち、長男繁は研究に必要な書籍は京都大学から貸与せられており(乙第二号証の一参照)この外大学より入手できぬ必要な書籍は長男は大学院法科研究生であるから、原告の購入又は所持する書籍で用を弁ずる外、尚不足のものは前記必要経費(a)に記載する毎月二、〇〇〇円の報酬の中から購入しているので、原告は長男のために書籍代を与えていない。又被告の主張する小遣も長男は前記毎月二、〇〇〇円の報酬の中からその用に当てているので、原告としてはその外には被告の主張する様な毎月一、〇〇〇円の小遣は与えていない。

次男昭も必要な書籍は長男同様関西学院から貸与せられているし、(乙第二号証の二参照)尚不足のものは次男も法律科の学生であるから原告の購入又は所持するもので用を弁じているので、書籍費としては支出していない。小遣は毎月五〇〇円であるが、これは原告の生活費の中に包含されている。

(ハ) 医療費は被告主張の金額五〇、〇〇〇円の内一五、一六〇円は認めるが、その余は否認する。盲腸手術のための隈病院への入院は一一日間でその内二日間絶食、三日間流動食、以後退院まで五日間かゆ食をとり、手術後も平熱であつたので、氷嚢の使用その他特別の処置を要しなかつたので同病院に支払つた一五、一六〇円以外には支出していない。(乙第三号証、甲第二三号証参照)

(ニ)の公租公課は認める。

(ホ)の女中の給料として被告の主張する一二、〇〇〇円の内九、〇〇〇円は認めるが、その余は否認する。

(2)  負債を二七〇、〇〇〇円返済したとの被告の主張事実は否認する。被告は原告が昭和二四年に六七〇、〇〇〇円の負債を弁済し、その後四〇〇、〇〇〇円の負債が昭和二五年に繰越されたことを以つて負債二七〇、〇〇〇円を返済したと主張するのであるが、(乙第五号証中貸金残高の部参照)それは次にのべる様な事情によるのであつて、昭和二四年度の原告の所得の結果によるのではない。即ち、

(一) 原告は昭和二三年一二月一日神戸銀行須磨駅前支店より三九〇、〇〇〇円を借受け、これで買入れた東洋紡績株、帝国人絹株、旭化成株とその他同銘柄の株式を合せて、東洋紡株一、三〇〇株、帝国人絹株一、四〇〇株、旭化成株二〇〇株を右借入金の担保に差入れた。

更に同月三日同支店から原告の妻の父信耕溪二名義で二八〇、〇〇〇円を借入れ、これで買入れた東洋紡株七〇〇株を右借入金の担保に差入れた。(原告が他人名義を使用して借入金をしたのは銀行の支店長は個人債務者一人に対しては五〇〇、〇〇〇円以上の貸出をする権限を持つておらぬからであつて、同支店長は担保は二口共通で十分であり且原告の人柄を信用して債務者信耕溪二については何等疑念を抱かず善意で貸出したものである。)その後翌二四年一月一六、七日頃右担保株式を全部売却し同月一八日株式店からその代金の支払を受けたので、同日その代金の内から、前記二口の借入金合計六七〇、〇〇〇円を弁済し、残金五二八、三〇〇円は同日同支店の原告普通預金口座に預入れた。

(二) ついで右預金の一部と同支店から借入れた次の借入金とで買入れた鐘紡株及び東洋紡株とを担保として同年一一月四日に二〇〇、〇〇〇円(担保株式東洋紡株二〇〇株、鐘紡株一、二〇〇株、甲第六号証の一参照)同月一一日信耕溪二名義で二〇〇、〇〇〇円(担保株式鐘紡株一、四〇〇株甲第六号証の二参照)以上合計四〇〇、〇〇〇円借入れたが、これは同年中には弁済しなかつた。

以上(一)、(二)に説明するところで明らかな様に、原告の負債が二七〇、〇〇〇円減少したと被告が主張するところのものは昭和二四年度における原告の所得の結果によるのではない。

(3)  預金が四一、三四九円増加したとの被告の主張事実は否認する。

原告は前記(2)の(二)で述べた昭和二四年一一月四日の借入金二〇〇、〇〇〇円から二ケ月分の利息を天引した残金一九六、七五二円を同日原告の同支店普通預金に預入れ(甲第八号証中昭和二四年一一月四日、手貸、一九六、七五二円との記載参照)同月一四日右預金の内四五、〇〇〇円を神戸銀行第三回幸運定期預金四五、〇〇〇円に振替えたのである。(甲第九号証参照)従つてこの定期預金は昭和二四年度の原告の所得からなされたものでないとは多言を要しない。

然るに被告が原告の預金が増加したことの証拠として提出する乙第五号証中の預金残高調の差引預金増四一、三四九円の中には右定期預金をも含めての計算であるから、被告の右主張は不当である。

仮に被告の主張通り原告が昭和二四年度中に生計費その他の消費的支出として三八九、四〇五円を支出したとすれば、被告の主張によれば、この支出も昭和二四年度中の収入として課税せられることとなるが、これでは通常生活費二四〇、〇〇〇円や長男、次男の学資金(所得税法第六条第三号によれば、学資金には所得税を課さない)七八、六〇〇円に対しても半額以上の所得税を課せられるという結論になるが、これでは三度の食事も二度にして所得税を納めねばならぬこととなる。この様なことは事業所得税の本質に反し不当なこと多言を要しない。

被告が主張する裁判上の収入の内

刑事事件の内

国選弁護料、鬼丸、大垣の分は認める。

橋本の分は着手金として五、〇〇〇円、大阪高等裁判所へ三回出頭の旅費日当として、四、五〇〇円を受領し、更に執行猶予を附せられた時には成功報酬として五、〇〇〇円の支払を受ける約束で予め成功報酬金五、〇〇〇円を預つたが、控訴審では原審の懲役四月が三月になつたのみで、執行猶予を附せられなかつたので、成功報酬として預つていた右五、〇〇〇円は昭和二四年一一月三〇日事件依頼者たる被告人の母橋本カネに返還した(甲第一〇号証参照)。従つて橋本の事件についての収入は九、五〇〇円である。

山田光威の事件は軍事裁判所に繁属した事件で無罪となつたので、原告は報酬として四〇、〇〇〇円の支払を受けたが、この外に同人より受取つた二〇、〇〇〇円は先に必要経費中(p)項で述べたとおり、村田顧問に対する飜訳料、通訳料等の費用で原告の収入ではない。

右以外に「その他六五、〇〇〇円」との収入は否認する。

民事事件の内、

日通神戸港支店の分の内三四、〇七一円一八銭(この外執行吏費用予納金、印紙代等の四、五〇〇円は先に必要経費(o)の処でのべたとおりである)、林三十一、同和火災の分は認める。(尤も被告の言う同和火災一四〇、〇〇〇円と言うのは同和火災より着手金、旅費、日当として受取つた五〇、〇〇〇円と同和火災、東京海上、日産、日動、安田、千代田各保険会社より着手金として受取つた合計九〇、〇〇〇円とである。)

平工業、内橋、物応の分は前に必要経費(l)でのべた旅費日当である。

右の外「神戸物産交易会社二〇、〇〇〇円、その他一〇〇、〇〇〇円」の収入は否認する。

原告が担当した民事事件の内訳は次のとおりである。

(1)  日通神戸港支店の事件というのは次の三件で原告は申立人の代理人であつた。

(イ) 神戸地方裁判所昭和二四年(フ)第二六号申立人日本通運株式会社、相手方翼組運輸株式会社間の破産申立事件(甲第一五号証の一参照)

(ロ) 同庁昭和二四年(ヨ)第三九号申立人日本通運株式会社、相手方楠沢きよ子間の仮差押事件(甲第一五号証の二参照)

(ハ) 神戸簡易裁判所昭和二四年(ロ)第七三号債権者日本通運株式会社、債務者木村長七郎間の支払命令事件(甲第一五号証の三参照)

(2)  平工業海運株式会社の事件というのは次の五件で原告は何れも右会社の代理人であつた。

(イ) 神戸簡易裁判所昭和二四年(ロ)第二四号債権者平工業海運株式会社、債務者株式会社青井組間の支払命令事件(甲第一六号証の一参照)

(ロ) 神戸地方裁判所昭和二四年(ヨ)第五五号債権者平工業海運株式会社、債務者株式会社青井組間の債権仮差押事件(甲第一六号証の二参照)

(ハ) 神戸簡易裁判所昭和二四年(メ)第二号申立人株式会社青井組、相手方平工業海運株式会社間の請負代金債務確定調停事件(甲第一六号証の三参照)

(ニ) 神戸地方裁判所昭和二四年(ワ)第一三五号、原告平工業海運株式会社、被告株式会社青井組間の売却残金等請求事件(甲第一六号証の四参照)

(ホ) 以上の外右会社が日本生命保険株式会社から二百数十万円の借入債務の支払につき原告は代理人として右保険会社の大阪本店に至り、延期、減額方交渉し、その他の債権者との間の債務整理についても委任を受けたが、これらの事件は裁判所に提出せられていない(乙第九号証の七中(一)の記載参照)。従つて被告の分類に従えば右債務整理の事件は裁判外の収入に属するものである。

(3)  内橋彌助の事件というのは、同人の委任に基き、その代理人として西脇警察署に告訴状を提出した事件で(甲第一七号証参照)民事事件として裁判所に提起した事件ではないから被告の分類方法に従えば、刑事事件の部に入るべきもので訴訟費用は一切支出しておらぬ。告訴状を提出する前に原告は西脇町に至り事実を調査し、告訴提起後も数回署長並に署員に面会し、事件が検察庁に廻された後も数回同庁に至り係検事に説明した(甲第一七号証参照、乙第九号証の八の「被告の方の頼みにより告訴取下げした」との記載部分を援用)

(4)  同和火災の事件というのは次の七件で原告は(イ)(ロ)については同会社の(ハ)ないし(ト)については同会社外五社の代理人であつた。

(イ) 神戸簡易裁判所昭和二四年(ユ)第二〇号申立入ユーエス、オートサービス、相手方東神産業株式会社、利害関係人同和火災海上保険株式会社間の賃貸継続調停事件(甲第一八号証の一参照)

(ロ) 同庁昭和二四年(ユ)第九一号申立人東神産業株式会社、相手方西村雅司、利害関係人同和火災海上保険株式会社間の部屋明渡請求調停事件(甲第一八号証の二参照)

(ハ) 神戸地方裁判所昭和二四年(フ)第三二号申立人同和火災海上保険株式会社外五社、被申立永田久間の破産申立事件(甲第一八号証の三参照)

(ニ) 同庁昭和二四年(ワ)第七一七号原告同和火災海上保険株式会社外五社、被告三晃物産株式会社間の小切手金等請求事件(甲第一八号証の四参照)

(ホ) 同庁昭和二四年(ワ)第七一七号原告同和火災海上保険株式会社外五社、被告株式会社神戸銀行間の小切手金請求事件(甲第一八号証の五参照)

(ヘ) 同庁昭和二四年(ヨ)第三一八号申立人同和火災海上保険株式会社外五社、相手方株式会社神戸銀行間の仮処分申請事件(甲第一八号証の六参照)

(ト) 神戸簡易裁判所昭和二四年(イ)第一四三号申立人同和火災海上保険株式会社外五社、相手方三晃物産株式会社間の和解事件(甲第一八号証の七参照)

(5)  物応英一の事件というのは次の三件で原告は物応及び藤本の代理人であつた。

(イ) 神戸地方裁判所昭和二四年(ワ)第六四四号原告物応英一、被告末広三次間の株券返還請求事件(甲第一九号証の一参照)

(ロ) 同庁昭和二四年(ワ)第六一一号原告藤本博、被告末広三次外一名間の約束手形金請求事件(甲第一九号証の二参照)

(ハ) 灘簡易裁判所昭和二四年(メ)第一〇号申立人末広三次外一名、相手方藤本博、利害関係人物応英一間の約束手形金減額調停事件(甲第一九号証の三参照)

この事件は被告等が京都市内に居住している関係上、始め示談のため原告は度々被告等の住所に赴いて示談解決を試み、この旅費日当として二〇、〇〇〇円を依頼者より受取つたが、示談成立しなかつたので、(イ)(ロ)の訴訟を提起したのに対し、被告から(ハ)の調停申立をしたものである。

(6)  林三十一の事件というのは次の二件で原告は林の代理人であつた。

(イ) 神戸地方裁判所昭和二四年(ワ)第八三号原告林三十一、被告福田八三間の家屋明渡請求事件(甲第二〇号証の一参照)

(ロ) 同庁昭和二四年(ヨ)第四三号、申立人林三十一、相手方福田八三間の仮処分申請事件(甲第二〇号証の二参照)

以上の外藤本一夫から依頼を受けた事件は全く無報酬であつた。(甲第二一号証の一、二参照)

被告主張の裁判外の収入の内

近畿魚類からの一〇、〇〇〇円、尚文館から五、〇〇〇円の支払を受けたことは認めるが、その他は否認する。もつとも右の外神戸銀行から顧問料二、〇〇〇円、謝礼金五、〇〇〇円の支払を受けているが、原告は昭和二三年一一月同銀行顧問を辞し、その後一切同銀行の仕事はしておらぬので、右二、〇〇〇円は昭和二三年度の顧問料であり、五、〇〇〇円は法律顧問解職手当である。退職金の課税については別個の法条があるので、これを弁護士業による事業所得金の中に入れて事業所得税としての税率をかけられるべきでない。

以上の如く、何れの点から言つても被告が原告がした昭和二四年度の所得税申告額を昭和二五年二月二六日更正し更に同二六年一月二四日その所得金額を二八〇、〇〇〇円とし、これを基準とする税額に更正したのは違法であるから、これが取消を求めるものである。」

と述べた(証拠省略)。

被告指定代理人は、

主文同旨の判決を求め、

答弁として、

「原告が昭和二一年九月以来神戸弁護士会所属の弁護士であること、被告が原告の昭和二四年度の所得の確定申告に対し、昭和二五年二月二六日その所得金額を四六〇、〇〇〇円と更正してそれを基準として税額を算出して通知したのに対し、原告より異議があるとして審査の請求がなされたこと、その後昭和二六年一月二四日被告は右更正に一部誤謬のあつたことを認め、その所得金額を二八〇、〇〇〇円と訂正しこれを基準として税額を更正して通知したこと、原告からの前記審査の請求に対し、まだ決定がなされていないことは争わない。

原告の昭和二四年度の収入金額が四〇〇、〇〇〇円に過ぎないとの点は否認する。

被告は原告の昭和二四年度の所得金額を二八〇、〇〇〇円と認定した(最初の更正決定額は四六〇、〇〇〇円であつたが、その後誤謬訂正により二八〇、〇〇〇円に減額されたこと前述のとおり)のに対し、原告は同年度の所得金額が一〇九、四八〇円に過ぎないとするのであるが、原告の同年度の実所得金額は少くとも二八〇、〇〇〇円を下るものでないから、被告のなした所得金額決定に違法はない。

まづ、所得金額の認定方法について一言するに、所得、特に事業所得は年中総収入金額から必要経費を控除した金額である。(所得税法第九条参照……以下単に引用する条文は昭和二四年度の所得に対し更正決定をなした昭和二五年二月当時の所得税法の条文を指す)から所得金額を認定する最も理想的な方法は個々の収入及び支出を明細に調査し、これを集計して結論を出すという方法(以下直接的認定方法という)であろう。しかしこの方法を採用できるためには納税義務者の納税行政に対する完全な協力、即ち、所得の偽りない申告、諸帳簿の正確な記帳整備、収税官吏の質問調査に対する誠実な応答が必要である。この前提の備らない場合に、もし収税官吏が直接的認定方法以外の認定方法の採用を許されないとしたならば、税務行政は遂に運営不能におち入り一方において国庫の歳入を確保しえぬと共に、他方において誠実な納税者と不正直な納税者の間の負担の均衡が失われて了うであろう。ここにおいて収税官吏は納税者の「財産の価格若くは債務の金額の増減、収入若くは支出の状況又は事業の規模により所得の金額又は損失の額を推計」(昭和二五年四月改正の所得税法第四六条の二、第三項参照)するという間接的認定方法を採用せざるをえないことになるのであるが、この推計の過程が通常の知識経験を有する第三者に是認されるものである限り、この方法による課税処分を違法とされるべきではない。右改正法は行政の実際として従来も行われて来たところを単に明文化したに過ぎず、法律改正の前後において理論に差異あるべきではない。

飜つて原告の場合についてみるに、原告は昭和二五年二月二日に昭和二四年度の所得金額を七五、四七一円と確定申告したが、この数字は常識上到底措信できない金額であつたので、被告はこれを更正したが、右更正の前後を通じて五回以上被告は署員を原告方に派遣し、質問その他の調査に当らせたが、(法第三条参照)原告はこれに対し何等誠意ある応答を行わず、収入支出に関する証拠資料の呈示を一切拒否し、却つてその経費に関する申立として徒らに誇大空疎且抽象的な強弁を繰返すのみであつた。即ち右調査に当つて原告は終始総収入の六〇%がその必要経費であると主張していたが、その経費の内容として、始めに医療費五〇、〇〇〇円、営業経費四六、〇〇〇円、その他生計費等を申立て、調査員が医療費、生計費等が必要経費に当らぬ旨説明すると、右六〇%の辻つまを合せるために、今度は営業経費を一四〇、〇〇〇円と申立て、或は交際費を誇大に申立てる等全く信頼しうる態度を示さなかつた。ここにおいて被告は間接的認定方法を採用し、原告の同年度の所得金額を四六〇、〇〇〇円とする当初の更正を行つたのであるが、その後諸般の事情を考慮し、これを二八〇、〇〇〇円に減額訂正したのである。その後更に調査を進めた結果、次の様な間接認定の方法によつてもなお所得は七〇〇、七五四円と認定することができる程である。即ち、

(1)  生計費その他の消費的支出として、

(イ) 二四〇、〇〇〇円 通常生活費(乙第一号証参照)

尚原告は原告一人の食費のみで、月額四、〇〇〇円要すると自認しているが、(被告はこれを援用するものである)原告方の家族構成(原告、妻、長男、次男、女中の五名)及び食費以外の生活費から推算すれば、この通常生活費の認定は寧ろ低きに失するとも言えよう。原告の主張するところでは、食費は原告自身とその家族、女中との間に大幅の差異があるが、新憲法下民主化された然も女中の就職希望者の必ずしも多くない昭和二四年頃の社会状勢の下において右の様なことは到底信じられない。

(ロ) 七八、〇〇〇円 長男、次男の学資金(乙第二号証の一、第二号証の二の一、二の二、第一号証の三参照)

学校に払う授業料、研究費等並に通学費の合計は三〇、六〇〇円であるが、右の外一人につき書籍代平均月一、〇〇〇円、小遣平均月一、〇〇〇円を要することは容易に推測しえられるところであるから この二名分の年額四八、〇〇〇円を加えて七八、六〇〇円と認定することは何等不当でないと考える。

原告は長男次男の書籍は学校から借用するものの外は原告の所有する書籍を使用している旨主張するが、弁護士の必要とする書籍と法律学生の必要とする書籍とが同一でないことは多言を用いずして明らかである。

(ハ) 五〇、〇〇〇円 医療費

原告は昭和二四年度中の医療費は五〇、〇〇〇円と申立てたが、その内、隈病院に対する支払は一五、一六〇円であるが(乙第三号証参照)これは盲腸手術に際しての入院の室料と手術その他の処置料のみであるので、右入院に伴うその他の雑費として四、八四〇円を推算し、その合計二〇、〇〇〇円を右盲腸手術関係の医療費とすることはむしろ最少限度の推定であり、この外各種の医療費の支出約三〇、〇〇〇円の存することが乙第一号証からうかがわれる。

(ニ) 八、八〇五円 公租公課、但し必要経費に当るものを除く(乙第四号証参照)

所得税と住民税が必要経費に当らぬことは言うまでもないが、家屋税も住居のために用いられる家屋に対するものであるから、これに該当しない。(法第一〇条第二項、第三項参照)

(ホ) 一二、〇〇〇円 女中の給料(乙第一号証参照)

以上(イ)ないし(ホ)の合計 三八九、四〇五円を支出し、

(2)  その負債を二七〇、〇〇〇円返済し、(乙第五号証参照)

(3)  その預金を四一、三四九円増加せしめ(乙第五号証参照)ているが、

前記(1)(2)(3)を合計した七〇〇、七五四円は原告が同年中に少くとも、それだけの所得を挙げたことを示すものである。なぜならば支出は所得によつて賄われることを通例とするものであるから、原告が右の様な支出等を行つた事実があるからには、特段の事情のない限り、同額以上の所得をえたと推定すべきである。

又他方収入の面から言つても原告は昭和二四年中に次の様な収入をえたことを認めることができる。即ち、

(一)  弁護士としての事業収入

(1)  裁判上の収入 五五九、四二一円

内訳

左記刑事事件の弁護収入

(イ)  国選弁護料一五件 一九、三五〇円(乙第九号証の一参照)

(ロ)  鬼丸義文に対する窃盗被告事件 二、〇〇〇円(乙第九号証の二参照)

(ハ)  橋本義政に対する進駐軍物資不法所持被告事件 一四、五〇〇円(乙第九号証の三参照)

(ニ)  大垣安信に対する強盗被告事件 二〇、〇〇〇円(乙第九号証の四参照)

(ホ)  山田光威に対する麻薬取締法違反被告事件 六五、〇〇〇円(乙第九号証の五参照)

(ヘ)  その他 六五、〇〇〇円

計 一八五、八五〇円

左記民事事件の訴訟代理人による収入

(イ)  日通神戸港支店(運賃請求) 三八、五七一円(乙第九号証の六参照)

(ロ)  平工業海運会社(破産宣告) 三〇、〇〇〇円(乙第九号証の七参照)

(ハ)  内橋彌助(債権取立) 一〇、〇〇〇円(乙第九号証の八参照)

(ニ)  同和火災(保険請求その他) 一四〇、〇〇〇円(乙第九号証の九、一〇、一四参照)

(ホ)  物応英一(抵当権設定、債務確認等) 二〇、〇〇〇円(乙第九号証の一一参照)

(ヘ)  林三十一(仮処分) 一五、〇〇〇円(乙第九号証の一二参照)

(ト)  神戸物産交易会社 二〇、〇〇〇円(乙第九号証の一三参照)

(チ)  その他 一〇〇、〇〇〇円

計  三七三、五七一円

(2)  裁判外の収入 五〇〇、〇〇〇円

以上(1)(2)の事業収入の合計 一、〇五九、四二一円

従つてこの収入より必要経費を控除したものが事業所得である。

(二)  事業外所得

(1)  恩給所得 一七、四七二円(受領額の七五%相当額)

(イ)  利子所得 一〇、五三三円

内訳

神戸銀行須磨駅前支店  九、三三〇円(乙第一〇号証参照)

同 本店          七五七円

千代田銀行神戸支店      一七円

帝国銀行神戸支店      四二七円

以上事業外所得の合計 二八、〇〇五円

原告が必要経費として主張するものの内

(A)は原告主張の趣旨で支払われているならば必要経費となるが、右金員が支払われていること、原告主張の目的で支払われていることは争う。

(B)(C)(D)(F)は原告主張通り支出されていれば必要経費であると認めるが、支出されたかどうかは知らない。

(E)の年賀郵便は事業関係者に対するものならば必要経費になるが、原告主張の金額がすべて右の様な意味における支出であるかどうかは争う。

(G)の内名刺代、紙代、心附等に関する支出は争う。

(I)(K)の支出のあつたことは争わないが、必要経費にはならない。

服装費は日常生計費に属するものであるから、これは原告の所得額から支出された訳であり、これを利益に援用する。

(J)は争う。

(L)の旅費日当については実費相当額の旅費が非課税所得であることは法第六条の明定するところであるが、弁護士が依頼者より受けるいわゆる旅費には報酬の性質が加味されているもので、この様な場合その金額から実費相当額を控除した残額が所得になると解する。その主張の金額の支出のあつたことも争う。

以上の如く間接的認定方法、直接的認定方法何れよりするも原告の所得が二八〇、〇〇〇円以上あつたことが認められるので、被告のなした原告の所得金額の決定に違法な点はなく、原告の請求は理由がない。

と述べた(証拠省略)。

三、理  由

原告が昭和二一年九月以来神戸弁護士会所属の弁護士業をしており、その昭和二四年度の所得の確定申告に対し、被告が昭和二五年二月二六日所得金額を四六〇、〇〇〇円と更正し、これを基準とする所得税額の通知をしたので、原告はこれに対し、審査の請求をなしたところ、その後昭和二六年一月二四日被告は、先の更正に一部誤謬があつたとして更にその所得金額を二八〇、〇〇〇円と訂正しこれを基準とする所得税額の通知があつたことは当事者間に争がない。所得金額を認定する方法としては被告の主張するとおり、事業所得は一年の総収入金額から必要経費を控除した金額であるから、個々の収入支出を明細に調査してこれを累計して算出する方法を最も理想的な方法とすること論をまたないところであるけれども、これがためには収入支出につき詳細正確な記録の整備されておることが必要であるところ、原告の昭和二四年度の所得に関しては、収支を明細にする帳簿等の記録の存しないことは原告本人の供述によりこれを認めることができるので複雑多岐に互る過去一年間の収支の金額についての原告本人の供述に正確を期待するのが元来無理なのであつて、そのことは次の様な点にあらわれており、これをそのまま信用することはできない。即ち、証人宮崎富吉の証言と原告本人の供述を総合すれば、乙第一号証の一(質問応答書第二次分)はその末尾に原告が署名捺印する際、その本文の一部に未記入の部分があつたかどうかは免も角としてその記載内容はいづれも神戸税務署の宮崎事務官の質問に対し、原告が答えたところに基いて作成されたものであることを認めることができ、右書証と証人宮崎富吉の証言とを総合すれば、原告の昭和二四年度の所得に対する被告の更正決定に原告が審査の請求をしたのにつき、神戸税務署の宮崎事務官が原告事務所に調査に赴いた際、原告の昭和二四年における裁判上の収入として刑事事件は国選弁護料一八、〇〇〇円、私選弁護料五件にて三〇、〇〇〇円、その内訳は鬼丸義文(窃盗)橋本義政(進駐軍物資不法所持)大垣安信(強盗)にて二〇、〇〇〇円、その他二件で一〇、〇〇〇円、民事事件は六件で二一三、〇〇〇円、その内訳は日通神戸港支店の事件三八、〇〇〇円、平工業海運株式会社の事件二五、〇〇〇円、その他四件で一五〇、〇〇〇円、調停事件の成功報酬三件で六五、〇〇〇円、他の三件は無報酬と述べていたことが認められるが、本訴提起後の被告の主張に対し原告は刑事事件の国選弁護料一九、三五〇円、鬼丸の二、〇〇〇円、橋本の九、五〇〇円、大垣の二〇、〇〇〇円、山田光威の六〇、〇〇〇円、民事事件の日通神戸港支店の事件の三八、五七一円、平工業の三〇、〇〇〇円、内橋彌助の一〇、〇〇〇円、同和火災保険株式会社の一四〇、〇〇〇円、物応英一の二〇、〇〇〇円、林三十一の一五、〇〇〇円は認めており、又裁判外の収入は本件訴訟において最初は全然ないと主張していたのに対し、後に至り近畿魚類からの一〇、〇〇〇円、尚文館よりの五、〇〇〇円は認めるに至つたことは記録上明らかであり、又必要経費についての原告の主張をみても、(F)訴状貼用印紙、その他訴訟用書類に対する貼用印紙、切手、葉書代等の合計二〇、〇〇〇円を主張していたのに、その後(O)として(F)と内容において重複する費目である印紙、送達料等をも含めた一三、五〇〇円を予備的に追加主張していること(この事も本件記録上明らかなことである。)又(J)交際費として会食費一回平均二、〇〇〇円として八回にて一六、〇〇〇円、喫茶一回平均二〇〇円にて一週一回又は二回一ケ年七〇回にて一四、〇〇〇円、以上合計三〇、〇〇〇円と主張し、原告本人は事件依頼者が債務者の立場で、債権者が会社の場合は、債権者会社の係の者が交渉に来た場合、会食費用は原告において負担し、一例を挙げれば、平工業海運株式会社の代理人となつて債権者日本生命保険株式会社に競売延期を頼んだとき、先方の財務課長と一緒に食事をしたことがあり、この様な意味の交際費や事件を紹介して呉れた人に対する謝礼的意味の交際費等を記憶と記録により計算すると原告主張のとおり三〇、〇〇〇円を要した旨供述しているが、原告が担当した民事事件の内訳として主張するものの内、原告が債務者ないしは被告の代理人となつた事件は(2)の(ハ)神戸簡易裁判所昭和二四年(メ)第二号申立人株式会社青井組、相手方平工業海運株式会社間の請負代金債務確定調停事件と(2)の(ホ)日本生命保険株式会社より平工業海運株式会社に対する借入債務弁済猶予の事件の二件のみであること、これらの事実を考え合すと原告の主張し、供述するところは正確な記録に基くものでなく、主として記憶に基くもので、前後矛盾するところがあり、到底そのままこれを採用することはできない。この様に収支を明細にする記録もなく、最もよく知つておるべき本人の主張し供述するところは、主として記憶に基くもので、そのまま信用することができない。このような本件においては収支を詳細明確に認定しこれを基礎として所得を算出する理想的方法を採ることは不能である。一般に一定の職業を有する者の一家の生計は他からの支出によつたことの見るべきもののない場合は、その職業による収入からその必要経費を支出した余剰により支出維持されているものということができるから、本件においても、原告が昭和二四年度にその家計に費消した経費は、反証のない限り、その職業である弁護士としての収入中必要経費を支弁した余剰により賄われたと見ることができるので、本件係争所得をその面から考えてみると

(イ)  通常生活費として一五六、〇〇〇円を支出していることは原告の自ら認めるところで、その内訳として、原告本人の食費一ケ月四、〇〇〇円、家族三名の一ケ月の食費を含めた生活費一人当り二、五〇〇円、女中の食費一ケ月一、五〇〇円であると主張し、妻と長男が原告から受けている毎月二、〇〇〇円宛の金員も生活費に使用していることも又原告の自ら認めるところである。原告本人の供述によれば昭和二四年度の取扱件数約二〇件でこの程度ならば強制執行の際の立会を除いては事務的補助は必要でないこと、只原告が法廷に出た間事務所が留守になるので、その間に事件依頼者が訪ねて来たときの応待に妻と長男を交代に自宅から事務所に通わせ、妻にはこの外事務所の掃除や、書面を書いたり、計算したりする程度の事務の補助をもさせていたこと、妻及び長男に小遣代りに原告主張の金員を与えていたことを認めることができ、原告は又家族なるが故にこれだけの小額で済んでいるので、人を雇うとなれば、もつと多額のものを給料としてやらねばならないのであるから、右の金額は事務経費と見るべきであると主張するが、法第一〇条第二項にいわゆる使用人の給料とは原則として他人を使用人として使う場合に支払う給料を指すものであつて、独立の生計を営む家族を使用人とするような特殊な場合は別として、原告の場合における様に、たとえ仕事の内容は使用人を雇つた場合のそれと同じであつても、事務員を雇うとなれば可成りの給料を出さねばならぬので、それを節約する意味で、同居の家族の内の妻ないし長男が原告の仕事に協力して手伝い、原告がそれに小遣程度の金銭を与えたとしてもこれを以つて税法上の必要経費として控除されるべき使用人の給料と同視すべきものと考えるのは当らないと解する。

原告本人の供述によれば、原告の妻の友人で教師をしている人の娘の山中けい子なる者が行儀見習の意味で、昭和二三年九月二九日から昭和二四年六月三日まで同居していたことが認められ、原告の主張するところによれば前記の如く女中の食費一ケ月一、五〇〇円、家族の生活費を含めた食費一人当り二、五〇〇円と言うのであるから、右山中けい子に要する一ケ月の食費その他の同居上の諸費用を二、〇〇〇円と推認するのが相当である。従つて昭和二四年一月から五月までの五月分の食費一〇、〇〇〇円を要したものと認められる。

(ロ)  長男、次男の学資金として被告の主張するものの内三〇、六〇〇円

(ハ)  医療費として被告の主張するものの内、一五、一六〇円

(ニ)  必要経費に当るものを除いた公租公課として八、八〇五円

(ホ)  女中の給料として被告の主張するものの内九、〇〇〇円を支出していることはいづれも原告の認めるところである。

右事実に原告住宅の写真であることにつき争のない乙第一六号証の一ないし四、成立に争のない乙第二号証の一、同号証の二の一証人土屋剛の証言と原告本人の供述を綜合して認めうるところの、原告が弁護士として相当大きな邸宅に成年の家族三人と女中を使用する生活をした昭和二四年度の生活費は、同年度の一般生活指数の一人月額二、一〇〇円を相当に上廻つていたに相違ないこと、ならびに一般家庭においては衣服費、光熱水費、交際費、雑費等が家計費中食費に次いで相当の割合を占めるという社会通念と原告の当時一ケ月の食費が四千円であつたとの原告の主張自体から考察すれば、原告はたとえその主張通り家庭菜園を利用し、前年度に薪を購入していたとしても、昭和二四年度の家計費として前認定以外に相当多額の支出をしていたものと推認するを相当とすべく、その額は前認定の分を合して年額二八万円を決して下るものではないことを認めうる。そしてこの種の支出は反証のない限り、同年度における収入から支出されたものとみるべきであること前述の通りであるが原告は通常生活費として原告が主張するもの以上の金額を支出していると裁判所が認定せられる場合には、これは昭和二四年一月一八日に神戸銀行須磨駅前支店の普通預金口座に預入れた五二八、三〇〇円の内よりその不足分を支払つたものであると予備的に主張するとしているが、生活費に幾らを要したか、それはその年度の収入により賄われたか、預金を引出して不足分を補つたかの事実は一つであつて、二つあるべきではなく、そのことは原告自身最もよく知るところであるべきなのに、右の様な予備的な主張をすること自体矛盾しているのみならず、成立に争のない甲第八号証(普通預金元帳)の昭和二八年一月二四日の貸方五二八、三〇〇円の記載以後における借方、貸方の金銭の出入をみるも預金より引出されて生活費に支出された分があるか否か、仮に一部あつたとしても、一年を総計して出入を計算するとき、果して原告の収入のみでは不足で預金を引出して生活費に充当した計算になるか否かこれを詳にしえない。従つて前記原告の家計費は原告の同年度の収入により賄われたと認めるの外ない。原告は又消費的支出が即ち同額の収入あつたものとして課税せられるならば、これでは三度の食事も二度にして所得税を納めねばならぬこととなり、法第六条第三号によれば学資金には所得税を課さないこととなつておるのに学資金や通常生活費にも半額以上の所得税を課せられると言う結果になるが、この様なことは所得税の本質に反し不当であると主張する。しかし法第六条第三号の学資金とは所得としての学資金には所得税を課さないことを規定したにとどまり、所得者がその子弟の教育に支出する費用をも所得金額より控除すべき趣旨に解すべきでないし、又所得に対してはこれに課せられるべき税金を念頭においてこれを差引いた残を生活費に当てる様心掛けるべきでもしその範囲では生活費に不足し、他に引出すべき預金もなければ、従来の生活費を切りつめる外ないのであつて、それだからと言つて原告の主張する様に所得税法の本質に反する不当なこととは考えられない。

従つて、昭和二四年度における原告の所得は二八万円を下らないものと言うべきであるから、原告の所得を二八〇、〇〇〇円とした被告の決定は何等違法でないので、これが取消を求める原告の本訴請求はその理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井末一 中村三郎 村上幸太郎)

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